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向精神薬擬人化その44:イフェクサーSR
久しぶりすぎて↑のナンバリングをいつも忘れる(挨拶
最近とみに睡眠時間が長くなり体の着実なポンコツ化をしみじみ感じます。
ようやく暖かくなって体が動くようになったので更新。

春アニメは不作と言われてるようですが個人的には結構な当たり時期だと
思いますね。カド、レクリ、バハソウル、ID、進撃、エロ、サクラ。
日替わりで楽しめるくらい充実してるよ!

インチュニブが発売され、バカ高い薬価と140錠包装に愕然とする昨今ですが、
ぼちぼち処方される患者が増えてきたイフェクサーを今さら取り上げようかと。
第三世代では最も高薬価の抗うつ薬。みんな飲んでくれてるかなー?

向精神薬擬人化その44:イフェクサーSR_f0133373_01462910.jpg一般名はベンラファキシン。

規格は37.5mg/75mgカプセル。

愛称は「ふぇくしあ」。
くしゃみのような響きだ。

正式名はイフェクサーSRなので
いふぇくさーえすあーる→
ふぇくすあーる→
ふぇくしあです(苦しい)。

パッケージは予想に反してカラフルで派手派手な感じ。
ファイザーから発売なので紺と白の特徴無い外箱を予想してただけに
ちょっと嬉しい誤算。
向精神薬擬人化その44:イフェクサーSR_f0133373_01542225.jpg
なので某バーガーショップの店員ぽい服装です。アニメで有名なワ○ドナルド…
ではなく、ワイスとファイザーの提携ショップ、ワイファイバーガーですw
パツ金は75mgPTPから。1号カプセルなので、まあ、色々でかい。

手に持ってるのはセロトニバーガーとノルアドポテト。バーガーを頼んだら
「ご一緒にノルアドはいかがですか?」とセット品を次々にW字スマイルで勧められ、
気の弱いデプレくん達はいつも225mgセット(¥798)を買わされるのである。
やたらと癖になるバーガーで、変なモノが入ってるのではという疑惑が尽きない。

頭に付けてるリボンはPTPの裏にも印字されてるよく分からん矢印。これで
後ろ髪をシニョンにしてくくっている…のだが詳しい髪型は不明(描けない)。
このシニョンはメチル基-CH3の象徴であり、ほどくと裏人格のプリスティちゃんが
出てくるのだ!…と本人は主張しているが同僚曰くあまり変わらないらしいw

耳に付けてるのはセロトニンとノルアドレナリンの作動性ニューロンを
ディフォルメしたやつ。ピンクがセロトニンで青がノルアド。セロトニンの方が
強いのでノルアドのやつより長めになってます。

足のリングは制服ではなく彼女の私物。活動的すぎる彼女がやたら動き回って
しょっちゅう見えそうになるのを懸念したワイスパパが嵌めたSRリング。
魔力を保存する徐放力があり、大分おしとやかな動きが出来るようになった。

アメリカはフィラデルフィアの出身で、屈指の難関校であるペンシルベニアを
卒業した才女。ワイスパパの自慢の娘であり、きさがヤンデレ化した後は
名門ワイス家の筆頭妖精として米国での実績をひっさげ鳴り物入りで来日し、
アジアのちっぽけな国の学園など主席で入学する…はずだったのだが。

なんと彼女の頭が良すぎて一周してアホな性格のせいで、ひたすら入園試験に
失敗し続けるのである!その間にワイス家は本業の不振で没落し、彼女は
他の子達とともにファイザー家に入籍。ファイザーでよそ者扱いされながらも
ふんだんにある資金で何とか試験に合格し、なんとか面目を果たしたのだが
彼女が足踏みしていた20年の間に国内ではぱきるやぞふぃーやさいんが大体の
第一線で抗うつ魔法を担うようになってしまい、居場所が無くなってしまう。

しょうがないのでDクラス屈指の性能ながら学食でバーガーショップのバイトを
続けている。無駄に営業力は高いので225mgセットはジワ売れしているが
こんな仕事でこの先Dクラスの先輩達を駆逐できるのか?ファイザー家は微妙に
精神科から手を引いているので幸先も不安が残る立ち上がりである。

育ちのせいか人当たりは良く、奔放な性格で周囲とはすぐ馴染んだ。ただ
落ち着きが無く気も短いので思いついたら話さずにはいられない。行動力も
サービス精神も旺盛で、とと美やぱきるが何となく呟いた冗談に機敏に反応し、
善意の精神で面白い話として周囲に広めまくる困った側面がある。
特にとと美は同じSNRIとしてさいんとふぇくしあによく絡まれる立場にあり、
何を考えてるか分からないさいんと何をし出すか分からないふぇくしあに
囲まれて気苦労が絶えない様子。

頭の回転は速いのだが、いったん出した結論を自己否定してまた考え出すので
仕事の効率は良くない。とある入園試験では試験官の期待に応えたいあまり
設計以上の成果を叩き出してしまい、かえってスキルの信頼性を損なってしまう
結果となった。こういった性格が試験に落ち続けた原因のひとつである。

学園生としては新人だがDクラスの連中はふぇくしあの海外の活躍ぶりを
イヤと言うほど聞かされている上に、クラス全員から腫れ物扱いされている
きさと気兼ねなく話せる数少ない人物なので、色々一目置かれている。
米国時代、ストール教授の下でれめると一緒に精神航空力学を学んだ事があり、
患者を打ち上げまくるカリフォルニアのロ○ット団と言われて恐れられた。
Cクラスのあせっととは立ち居振る舞いが似ており、腹違いの姉妹では無いかと
一時期噂されたがその後否定された。ただその縁であせっとと仲は良い。



「一番新しい抗うつ薬にして元祖SNRI!」

…何を言ってるのか分(ry ですが、イフェクサーの歴史はトレドミンより
サインバルタより長く、SNRIの嚆矢と呼べる存在です。そもそもSNRIという
用語は、ワイス社がイフェクサーを売り出すときに使った宣伝文句です。
そんなもう古典的とも言えるような薬が何故今さら日本で新薬として、しかも
抗うつ薬最高の薬価を付けて発売されたのでしょう。海外の薬がなかなか入って
こないというドラッグ・ラグ問題、その象徴のような薬がイフェクサーです。

綴りはEffexorで、意味は「効果(effect)を実行する者」。海外で流通していた時は
国内でもエフェクサー読みが主流でしたが、最初の三文字がエフェドリン
と被るために無理矢理イフェクサーの名前に変えられました。シンバルタ→
サインバルタ、アビリファイ→エビリファイ等の強引な名称変更を見ると、
レセコンの薬品名三文字入力問題はけっこう深刻だなぁと思ってしまいます。

イフェクサーの成分、ベンラファキシンという物質の開発は1960年末に
遡ります。米国ワイス社の研究者であるヤードレイ博士らは当時主流であった
三環系抗うつ薬から抗コリン性や心毒性を抜いた安全な抗うつ薬の開発を
模索していました。そこで自分たちがかつて開発したオピオイド受容体作動薬、
シラマドールに注目します。

シラマドールの構造を多少変化させると、当時無動性統合失調症の補助療法と
して試用されていたガムフェキシンと類似した物質が得られました。これは
賦活作用があるのではと予見したヤードレイらは、ここからセロトニン・
ノルアドレナリンの再取り込み阻害能が最も高く、抗コリン作用を最も低く
示した物質を選択し、これにベンラファキシン(WY-45030)と名付けたのです。
これが1981年。世界初のSSRIであるジメリジンの発売1年前です。

ちなみにベンラファキシンは、オピオイド系鎮痛薬であるトラマドールと
構造が非常に似ています。トラマドールの方が炭素1個少ないだけです。
トラマドールは1962年にグリュネンタール社によって開発された薬なので、
両者に関連性は無いのですが、ベンラファキシンがトラマドールの類似薬
であるシラマドールから開発された事を考えると似てるのも当然でしょうか。
この事はベンラファキシンにオピオイド刺激作用がある事を示唆しますし、
実際存在もしています。臨床効果に与える影響は不明ですが、サインバルタ
より比較的吐き気の副作用が多いのは、これも関与してるのではと思います。

ベンラファキシンはその後の調査によってイミプラミンと同等の効果とより
少ない副作用が確認され、臨床試験を経て米国で1993年に承認されました。
当初は速放錠(IR)とよばれる普通の錠剤で発売されていましたが、半減期が
非常に短く1日に数回の服用を余儀なくされることから、徐放カプセル(XR)が
開発されます。これは97年に米国で発売されました。

90年代初頭は既に英国や米国でセルトラリンやパロキセチンが発売されており、
特にパロキセチンのメーカーであるスミスクライン・ビーチャム社による
宣伝文句「SSRI」なる鮮烈な響きによってこれらは爆発的に売れ始めていました。
後塵を拝したワイス社は、ベンラファキシンに「SNRI」の二つ名を冠し、
セロトニン・ノルアドレナリンのデュアルアクションである事を強くアピール
します。SSRIのSSはSelective Serotoninの事であり、SNだとノルアドレナリン
選択的って事になるじゃん!というツッコミは当初から多くありましたが、結局
ワイスが押し切ってしまうと精神科薬の用語として確立しました。
ちょっと高度な第三世代抗うつ薬としての地位を得たベンラファキシンは着実に
売上を伸ばし、最盛期には毎年4000億円近い売上をワイスにもたらしたのです。

これほど有名な薬なので、当然早い段階から日本での臨床試験は行われています。
米国でXRが発売される前から、日本で徐放カプセルの第Ⅰ相試験は行われており、
98年には前期第Ⅱ相、2002年には後期第Ⅱ相と、順調に試験は続いていました。
特に後期第Ⅱ相試験では綺麗な用量反応曲線が描かれたため、調子に乗った
ワイスは米国の実績とこの試験で承認申請を行いましたが、さすがに日本で
第Ⅲ相をやってないのはダメと却下され、一度取り下げています。
この申請取り下げでケチがついたのか、以後の治験はトラブルの連続となります。

2004年から始まった第Ⅲ相試験では、類薬であるミルナシプランとの二重盲検
比較試験(12週間)が行われました。試験は順調に推移し、ミルナシプランに
対する非劣勢も証明されたのですが、プラセボのつもりで設置していた
ベンラファキシン群18.75mgがやたらと高い反応率を示してしまい、高用量の
ベンラファキシン群にわずかに勝る治療成績を残してしまったのです。

ベンラファキシンはひょっとしたら18.75mgで十分なのでは?という疑念が
生まれてしまったこの結果にワイスは的確な対処が出来ませんでした。この後
2006年には75~150mg 52週間の長期投与試験が行われ、順調に終了しました。
ワイスはこれらの試験結果を元に再度申請を行いますが、この疑念を
払拭しない限り承認されることはないと勧告され、また申請を取り下げます。

そんな事をしているうち、米国のベンラファキシンの特許がそろそろ切れ
かかってきます。ワイスはベンラファキシンの後継として活性代謝物の
デスベンラファキシンを開発しようとしていました。日本で一向に芽が出ない
ベンラファキシンの開発はここでいったん打ち切られてしまい、日米で
デスベンラファキシンの共同開発が2008年から始まります。

ところがこの試験の最中である2009年10月、ワイスはファイザーに買収されます。
日本でも2010年6月に日本ワイスがファイザーに統合され、ベンラファキシンの
開発はファイザーが引き継ぐことになりました。
この試験でデスベンラファキシンは最小用量50mgを確立し、晴れて米国FDAに
承認されてプリスティークの名で発売されました。一方の日本では治療成績が
芳しくなかったのか、ファイザーは申請そのものを行わなかったようです。

デスベンラファキシンの日本開発はその後も続けられる予定でしたが、
日本ファイザーの開発陣は最小50mgのデスベンラファキシンより低用量で
開始でき、世界で高い治療実績を誇るベンラファキシンを開発したいと強く
要望しました。ベンラファキシン承認のための4度目の挑戦が始まります。

2011年から14年にかけて、ベンラファキシンとプラセボの二重盲検比較試験が
行われます。かつては実行出来なかった抗うつ薬とプラセボの比較試験は、
ファイザーがジェイゾロフトを認可する際に強行したおかげで、日本でも
可能なご時世になっていました。これにより鬼子だった18.75mgをプラセボに
代え、12週間の経過を見たこの試験でベンラファキシンのプラセボに対する
優位性が明らかとなりました。75mgを越えると不眠などノルアドレナリンに
まつわる副作用が増え、かえってHAM-D値は下がりましたが、ともかくも
試験は成功しました。その後の52週間長期投与試験にも成功し、ファイザーは
晴れて2014年12月にベンラファキシンの承認申請を行います。
この申請はすんなり通り、2015年9月に承認、12月に発売が決定しました。

ベンラファキシンの誕生から日本発売まで実におよそ34年。サインバルタや
レクサプロも大概時間はかかっていますが、世界で十分な実績を誇り
とっくに各国のうつ治療ガイドラインに乗っているこの薬が先進国の日本で
2015年まで使えなかったという事実は衝撃的です。

デスベンラファキシンを含めれば三度申請に失敗しているわけですが、ワイスの
勇み足だった一度目、会社のゴタゴタ期だった三度目はともかく、二度目は
プラセボが二重盲検で使えなかったために起きた悲劇でした。ファイザーは
当時前例の無い試験デザインで承認を取ったと大バッシングを食らいましたが、
結果として見ればジェイゾロフト・イフェクサーという国際的にも評価の高い
抗うつ薬の導入に成功し、日本精神医療の発展に貢献したと言えるかも知れません。

イフェクサーの薬理学的な特徴は、代名詞である「SNRI」に端的に表されており、
その名の通りセロトニンとノルアドレナリンの前シナプスへの再取り込みを
阻害することで抗うつ作用を示します。これは先行発売されているトレドミンや
サインバルタと同じ分類にくくられるわけですが、同じSNRIでもその性質は
三者三様で異なるようです。

一番最初に認可されたトレドミンは比較的ノルアドレナリンの再取り込み作用が
強く、抗うつ効果も早期に現れます。ノルアドレナリン系を強化することで
低血圧も改善できるので、若年者への投与に向いています。一方で抗うつ薬と
しての性能は他二剤に及ばず、150mg~200mg/日を投与してもセロトニンの
再取り込み口であるトランスポーターを80%占有できないとされています。
セロトニントランスポーターの80%占有は抗うつ効果の一つの目安とされており、
これが弱いトレドミンは日本初のSNRIと言われながらあまり活躍できず、その後
発売されたパキシルに全て持って行かれました。

続いて発売されたサインバルタはセロトニンとノルアドレナリンのトランス
ポーターへのKi値結合比が1:9と近い値になっており、服用初期からどちらの
系統も強化する薬になっています。これにより情動系と同じくノルアドレナリン
-セロトニン神経に支配されている下行性疼痛抑制系が活性化されるため、
サインバルタは神経痛を抑える薬として優れた効果を持ちます。セロトニン
トランスポーター80%占有率は40mg/日で達成でき、抗うつ効果も高いのですが
セロトニンとノルアドレナリンを同レベルで上げていくと、人によっては
セロトニンが不足しているのにノルアドレナリン系賦活が賦活することにより
ひどい焦燥感や不快感が現れます。このためサインバルタは脱落者が多く、
日本で製造承認を通すのに大変苦労しました。

さて今回のイフェクサーはと言えば、セロトニントランスポーターへの結合力が
ノルアドレナリンのそれよりもかなり強いことが言われています(Ki値における
結合比は1:30。活性代謝物は1:14)。この事により低用量ではセロトニン系のみ
を活性化させるSSRIのような働きをしますが、用量を上げるにつれてノルアド
レナリン系が活性化され、SNRIとして作用します。このディレイド-デュアル
アクションにより、症状の進展に合わせた用量が選択できるのです。
セット販売ではなく、ハンバーガーのみを選ぶことも出来るわけですね!
(たいがいの場合ポテトも買わされます)

大体50mg前後でセロトニントランスポーターを80%占有し、その後の用量追加は
ノルアドレナリン系を上げるのに使われます。言い換えれば、イフェクサーは
75mgまではSSRI、それ以上の用量ではSNRIとして作用します。一般的なうつ病の
場合、セロトニン系の低下が不安・焦燥感を、ノルアドレナリン系の低下が
興味や意欲の喪失を引き起こします。従ってSSRIで不安感を抑えることが
出来ても、なかなか仕事や以前の生活を続ける意欲が湧かない事があります。
このような時、イフェクサーは薬を追加したり変更する必要が無く、用量を
上げることで対応可能となるのです。

in vitroにおけるセロトニンとノルアドレナリントランスポーターの阻害定数
(Ki)を比較すると、デュロキセチンはベンラファキシンに較べ100倍くらい
緊密に結合します。これだけ見るとサインバルタの方が強い薬に思えますが、
サインバルタは生体内において50%ほどしか吸収されず、さらにその98%は
血漿タンパクと結合して利用されていません。80%以上が吸収され、血漿
タンパク結合率が30%程度のイフェクサーと比較すると、臨床力価はそこまで
大きく離れません。サインバルタの開発元であるリリー社が試験したところ、
大体サインバルタ60mgとイフェクサー150mgが同等量と結論づけられています。
ただサインバルタは一日上限量が60mgであるのに対し、イフェクサーはさらに
上の225mg、米国基準の最大量まで増量が可能な薬となっています。これにより
ノルアドレナリンの活性化を推し進めた、ドパミン系への賦活も視野に入ります。

前頭葉皮質でドパミンはノルアドレナリントランスポーターを介して再取り込み
されるため、ノルアドレナリン系の活性化を突き詰めると、ドパミン系も活性化
することが示唆されています(ストラテラの薬理作用)。うつにおいてドパミン系の
低下は興味や楽しい感情の喪失に繋がっており、これが単剤で治療できる
ならば素晴らしい事です。PTPの裏に刻まれたメビウスの環のような矢印は、
パンフレット上では健常な日常生活から灰色のうつ病世界を巡り、一周して
元の世界に戻ってくることをイメージしています。イフェクサーはその性質と
認可された用量により、SSRIから始まる第三世代抗うつ薬では最も強い力を持つ
薬であり、治療が一剤で完結するメーカーの願いがPTPに刻まれているのです。
(ただしドパミン系の活性化にはベンラファキシン375mg/日必要との説もあり)

またSNRIは別系統からセロトニン・ノルアドレナリンを賦活させる薬である
レメロン(リフレックス)と非常に組み合わせやすい薬です。イフェクサーでも
効果が弱いと思ったらレメロンを追加することによりさらに高レベルの増強が
可能です。SNRIとレメロンの組み合わせは米国でカリフォルニア・ロケットと
名付けられ、難治性うつ病の治療法として有名でした。今まではサインバルタが
イフェクサーの代用でしたが、ようやく日本でも本家本元のロケットを飛ばせる
ようになったのです。またドパミン系を直接上げたいと思ったら現在では
エビリファイを追加することが保険上認められています。エビリファイは
抗うつ薬の二剤制限に引っかからないので、イフェクサー・レメロン・
エビリファイの組み合わせはうつ病治療のプレミアム・レシピとなります。
いずれも極量まで処方された場合、一日薬価はイフェクサー225mg797.7円+
レメロン45mg451.2円+エビリファイ15mg380.3円=1629円となり、
「んほぉ自立支援医療が崩壊すりゅのぉおぉ~っ!」と自治体福祉課が発狂する
金額になるので、なんとかそこまでいく前に回復することを祈りたいですね(汗

ベンラファキシンはもともと速放錠として発売されましたが、半減期が1~3時間と
極端に短いため、離脱作用を起こす頻度が高いという不都合がある薬でした。
今回発売されたSR(Sustained Release)カプセルでは、顆粒の一粒一粒に細かい
穴を開けており、そこから徐々にベンラファキシンが放出される構造となって
います。これにより半減期を12時間程度まで延長することが可能となり、1日1回
の服用が可能となりました。wikiなどでは1回服用を忘れただけで離脱症状を
起こす云々と書かれていますが、これは1998年の文献が根拠となっており、その
頃は速放錠が普及していたためこの結論となった…とファイザーは主張してます。
ただSRカプセルでも半減期はさほど長くないので、夜に服用すると翌日の夕方に
効果が薄れる可能性があります。添付文書上には服用タイミングの記載が
ありませんが、どちらかと言えば朝に飲む方がいい薬だと思います。

活性代謝物の影響がかなり大きいのもイフェクサーの特徴です。吸収された
ベンラファキシンは肝臓のCYP2D6ですぐに代謝され、o-メチル基を一個失います。
この脱メチル体は一般的にデスベンラファキシンと呼ばれていますが、その
AUCは元のベンラファキシンの5倍にも達します。言い換えれば、イフェクサーの
効果の6分の5はデスベンラファキシンによる物なのです。

デスベンラファキシンはベンラファキシンに較べてノルアドレナリン再取り込み
阻害能が強いと言われています(ベンラファキシン1:30/デスベンラファキシン
1:14)。このためワイスはデスベンラファキシンを取り出し、薬理作用の異なる
新薬プリスティークとしてFDAに申請したのですが、イフェクサーの効果の
大部分がデスベンラファキシンによる物である事を考えると、この阻害能の
違いが臨床的にどれほどの意味があるのかは疑問です。CYP2D6を遺伝的にあまり
持っていないヒトでは血中ベンラファキシンがかなり優勢になるのですが、
それによる臨床効果への影響は認められなかったと言われていることからも、
イフェクサーとプリスティークの差異はほとんど無いのではと思われます。

副作用に関しては、一般的なSSRIとさほど変わらない感覚です。吐き気や頭痛
など、パキシルやサインバルタでもよく見られるものが上位に上がっています。
ただ75mg以上だと延々ノルアドレナリン系を上げることになるので、発汗や
動悸など、ノルアドレナリンにまつわる副作用が増えていきます。個人的な
経験としてはアカシジア(足がむずむずしてじっとしていられない、眠れない)
を訴える患者が複数いたのが印象的でした。ノルアドレナリンの濃度増加が
原因であることは否定できないので、増量の際は注意すべきでしょう。
増量期を終えると軽快する可能性はありますが、アキネトン・インデラル・
リボトリールなど副作用止めの追加も有用です。

イフェクサーは多くの国で既に長期に渡って処方され続けており、長期投与に
おける安全性や治療維持効果も証明されているため、SSRIに並んでうつ病の
第一選択薬として推奨されている薬です。シプリアーニらが行い、レクサプロの
名を一挙に高めた有名なMANGA研究は軽度のうつ病患者が多く、SNRIには不利な
メタアナリシスと言われていますが、それでもイフェクサーは有効性の面で
レメロンやジェイゾロフトに匹敵するとされ、ライバルのサインバルタを大きく
引き離しています。SSRIは不安のコントロールに優れますがうつの治療には
少し軽く、サインバルタはうつの治療には強いですが不安を抑えるのは不向き。
両方のいいとこ取りをしているイフェクサーは出足こそ大きく遅れているものの、
今後日本のうつ治療の標準薬としてシェアを伸ばしていく事が期待されています。
…というか、ファイザーが期待していると思います。

日本でジェイゾロフトのパテントが消失したのは2015年の12月であり、それは
そのままイフェクサーの発売月です。むしろジェイゾロフトの特許切れ時期から
逆算して開発計画を作ったのかもしれませんが、治験上のトラブルも起こす
ことなく申請から承認を受けるまでのタイミングも完璧。パテントクリフ回避の
上手さはさすがファイザー、世界最強の製薬メーカーの面目躍如と言えるでしょう。
ただ、その後釜を担うパイプラインが今のところファイザーには存在しません。

ファイザーは現在精神科薬として7種類の薬物を擁しており、精神科にも強い
メーカーであると謳ってはいますが、純粋なファイザーの薬はジェイゾロフト
だけです。ハルシオン・ソラナックス・デジレルの3種はアップジョンの薬で、
ワイパックス・アモキサン・イフェクサーはワイスの薬です。米国ファイザー
では他に自社開発品としてジオドン(ジプラシドン)を持っていますが、国内の
ファイザー資産を整理する際、分社化したラクオリア製薬(旧ファイザー中央
研究所。2008年2月発足)にライセンスを売り飛ばしてしまいました。
ラクオリアは古巣に恨みでもあるのか、ジプラシドンの開発を明治と行う事に
したため、現在ファイザー内における精神科薬の開発品は無いのです。

イフェクサーの国内パテントが切れる際にプリスティークの申請を行う可能性は
ありますが、プリスティークの効果はイフェクサーとさほど変わらない上に
ファイザーは一度デスベンラファキシンの研究を擱坐させているので、今さら
こんな昔の薬に開発資金をつぎ込む事はしないように思います。ファイザーの
現主力は抗ガン薬・抗リウマチ薬・ワクチンであり、精神科領域のMRは
エスタブリッシュ部門というファイザー製ジェネリックを扱う部門と同じ扱いを
受けていると聞きます。不憫!欧米では各種不安障害にも適応がついている
イフェクサーですが、ちゃんと日本でも適応追加してくれるんでしょうかね…。

ファイザーは6兆円もの巨費を投じてワイスを合併しましたが、そこで注目して
いたのはバイオ医薬品とワクチンでした。イフェクサーの国内発売はファイザー的に
副産物でしかありません。発売に漕ぎ着けただけありがたいとは言え、これほどの
歴史的な薬が他の第三世代抗うつ薬に埋もれてひっそりと発売されたのは少し残念に
思います。せめて10年前、ワイスが存命していた2007年頃にデビューしていれば、
日本の抗うつ薬市場のトップシェアを握れた可能性だってあったのに…。

2017年の現在、抗うつ薬は保険上二種までしか処方出来なくなり、
パロキセチンやセルトラリンなどのジェネリックへの移行圧力も高まる中で、
新規薬は気軽に試せない空気があります。3Capでグランクラブハウスセットより
高くなる薬はインフレ2%を達成できない日本で受け入れられるんでしょうか?
名字が伊福さんだとタダでもらえるキャンペーンがあれば…(要らんわ
by haya by hayanoya | 2017-05-28 02:25 | ちびまる向ちゃんトピ
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